「神話は勝者のプレスリリースにすぎない」──本書が突きつけるのは、この痛烈な問いだ。
本書は、〈古事記〉と〈日本書紀〉を「対立するプレスリリース」として読み替え、考古学データで裏打ちする**“史料の二重読解”**を体験させてくれます。
歴史とは、勝者の物語で終わらない──敗者の沈黙をすくい上げ、新しい過去を紡ぐ。そんな視点を授けてくれる一冊でした。
1. イントロダクション
教科書で覚えた〈古事記〉と〈日本書紀〉は、実は “勝者” と “敗者” がそれぞれ発行した国策メディアだった――。
高菜秀明氏の「消された王権 尾張氏の正体」は、文献批判と考古学の最新成果を組み合わせ、「削除された王族」の痕跡を浮かび上がらせます。読み進めるほど、古代史が推理小説に思えてくるスリルが味わえました。
2. 〈古事記〉vs.〈日本書紀〉 “出版順”逆転の衝撃
通説 | 本書の主張 |
古事記(712) → 日本書紀(720) | 日本書紀 → 古事記(天武派の逆襲文書) |
コメント
敗者側(天武系)が〈日本書紀〉と同じ体裁で “コピペ+暗号” を仕掛け、勝者の物語を内部から食い破ろうとした――という視点が新鮮。序文に漂う“天武シンパ”の匂いが根拠として挙げられています。
3. 邪馬台国征服シナリオ
仲哀天皇 & 神功皇后 in 北部九州
- 女王(卑弥呼?)討伐
- 魏へ報告できず身分を偽装
- “懐妊”は政治的カモフラージュ
女王殺害の罪を隠すための“プロパガンダ神話”と見ると、長期懐妊伝説が一気にリアルな情報統制に読めてゾッとします。
仲哀天皇と神功皇后は「外征の英雄」どころか、九州の覇者を排除してヤマトの版図を拡張した “征服王と情報工作官” です。卑弥呼を討ったあと、魏に叛逆の報告ができず──
「皇后はいまも懐妊中です。王位はまだ空席でして……」という苦肉の言い訳で時間を稼いだ。
この“神功皇后・懐妊伝説”が後世に残ったのは、政争の痕跡を神話へ転化して封印したからではないか。
4. 三極連合モデルで読むヤマト建国
勢力 | 地域 | 代表氏族/神 |
東海 | 尾張 | ナガスネヒコ / 日本大国魂神 |
瀬戸内 | 吉備 | 物部氏 / アマテラス |
日本海 | 丹後 | 蘇我氏 / 大国主・スサノヲ |
考古学が示す古墳副葬品や土器系統の違いを、この“三極連合”で読むと綺麗に整合。ヤマト建国は「吸収合併」ではなく「地域連邦」だったという説得力があります。
5. スサノヲと蘇我氏――悪役にされた祖神
- 音韻キー:「スガ」→「ソガ」→ 蘇我
- 仮説:藤原氏が政敵・蘇我氏を貶めるため、祖神スサノヲを “荒ぶる鬼” に落とした
須賀神社・素鵞社に残る「スガ」の痕跡は、抹殺しきれなかった証拠。神話すら政治宣伝になる古代のイメージ操作を痛感します。
6. ナガスネヒコ再評価
旧イメージ | 新イメージ |
神武天皇に討たれた悪役 | 尾張勢を代表する正統リーダー |
東海地方に残る地名・伝承が裏づけとなり、敵役が一転して英雄へ。歴史叙述は「誰が筆を持つか」で180度変わる好例です。
以上
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