「スピリチュアルズ」を読みました。副題は「私の謎」。著者は「言ってはいけない」の橘玲さんです。
 この本では、人間の性格や資質が意識ではなく「無意識(スピリチュアルズ)」によって決定されるという理論を中心に展開しています。脳科学や心理学の最新知見を基に、個人の性格がわずか8つの要素(明るい/暗い、楽観的/悲観的、同調性が高い/低い、共感しやすい/冷淡、信頼できる/あてにならない、面白い/つまらない、知能が高い/低い、外見が魅力的/そうでない)によって構成されていると説明しています​ 。橘玲さんは、このスピリチュアル理論が現代の様々な場面で応用されていることを示し、読者に「自分の人生を変える」ことができると示唆しています。
 私の感想として、この本を通じて性格が遺伝によって大きく影響されることを再認識しました。家庭環境や親の教育よりも、学校などの友人や環境がより重要であることが述べられており、特に性格分類における正規分布ベキ分布の違いが興味深かったです。正規分布は、例えば身長やIQのように多くの人が平均的な値を持ち、極端に高いか低い値を持つ人が少ない場合に適用されます。これに対して、性格や才能の分布はベキ分布に近く、少数の非常に優れた人が大多数の平均的な人よりも大きな影響を持つという現象が見られることが分かりました。
 また、人間は意識を持つ動物であり、その行動は基本的な報酬と損失を避けるプログラムによって駆動されていると著者は説明しています。嗅覚の神経系しか持たない単純な生き物ですら、食べ物の匂いに惹かれ、捕食者の匂いから退くようにプログラムされているのです。このようなプログラムは自然淘汰によって生存と生殖に有利なものとして選ばれてきたのです。
 この本を通じて、新しい人間の見方を持つことの重要性を強く感じました。犯罪を犯す理由や利他的な行動をとる理由を考えると、人間は生存、生殖に翻弄されているのではないかという視点が浮かび上がります。従って、私たちは常に自分のパーソナリティーを理解し、それを前提に自分に合った場所を見つけることが、楽しい人生を築く鍵であると感じました。備忘します。

生き物を駆動させるプログラムの基本は報酬を好み損失を避けるだ。そこで、嗅覚の神経系しか持たない極めて単純な生き物を考えてみよう。この生き物にとっての報酬は食べ物で、損失は捕食者だとすると、食べ物の匂いのする方向に住み、捕食者の匂いのする方向から退くようにプログラムされているはずだ。自然淘汰によって、このようなプログラムが生存と生殖に有利なものとして選択されたのだ。ページ39
生物にとって最も重要な原理は最小限のコストで目的を達成することで、そのために車と同じく、アクセルとブレーキの2系統の神経形を持つようになった。ページ40
こうしてようやく、標準的なビックファイブパーソナリティーお紹介することができる。①外交的内向的、②神経症傾向(楽観的/悲観的)、③協調性(同調性+共感力)、④現実性(自制力)、経験への開放性(新奇性)、なぜこの5つの因子で性格が決まるかというと人格とはあなたの内部にあるのではなく、身近な他者の評価がフィードバックれたものだからだ。これは、すべての人が人生という舞台で主役を演じていると考えれば当然のことでもある。パーソナリティーはキャラのことだが、それは観客の評価を反映しているのだ。ページ49
見ず知らずの人と出会った時、あなたは何を真っ先に気にするだろうか。進化が生存と生殖に最適化するよう生き物を設計したと考えるなら、その答えは明らかだ。その相手は生存への脅威か、そうでないか、その相手は生殖の対象か、そうでないか。ページ51
これが他者と出会った時無意識に注目する8つの要素ビッグエイトで、そもそも人間はこれ以外のことを気にするようにはできていない。①明るいか、暗いか(外交的/内向的)、②精神的に安定しているか、神経質か(楽観的/悲観的)、③みんなと一緒にやっていけるか、自分勝手か(同調性)、④相手に共感できるか冷淡かs(共感力)、⑤信頼できるか、あてにならないか(堅実性)、⑥面白いか、つまらないか(経験への解放性)、⑦賢いかそうでないか(知能)、⑧魅力的か、そうでないか(外見)どうだろう、初対面の相手に対して、他に興味を持つことがあるだろうか。ページ54
私たちは物心ついてから、自分のキャラを発信し、相手のキャラを読み取るという社会ゲームを延々とやっている。リアルの世界でも、ファッションや音楽の趣味、読んだ本や好きな映画、仕事の態度や政治的な発言などからなんとなく好き嫌いを決めている。だとすれば、これこそがそのままSNSに移植されるのは当然のことだ。ページ73
犯罪心理学者の間では以前から、反社会的な人間は心拍数が低いことが知られていた。これは動物も同じで、攻撃的で試合的なウサギは、おとなしく従属的なウサギに比べて安静時心拍数が低い。さらにうさぎの支配関係を実験的に操作すると、支配力が上がるにつれて心拍数が下がる。これと同じ相関関係は猿からマウスまで動物会では広く見られる。ページ89
外交的な性格は成功できるというのも、同じサバイバルバイアスだ。現代社会の成功者を見ればほとんどが外交的なパーソナリティーかもしれないが、その背後には過剰なリスクをとって失敗した人たちや、犯罪に手を染めて刑務所に放り込まれた膨大な人たちがいるはずなのだ。ページ93
こうして、誰もが知っているように、喜びや幸福は徐々に色あせ、その後に喪失感や渇望感が残される。これも進化の適用で、欲望が満たされて満足してしまっては、利己的な遺伝子のコピーを後世に残すことができない。私たちはドーパミンによって、ひたすら新しい欲望を追い求めるように設計されている。ページ101
抑鬱と言うのは、過去のシミュレーションがネガティブな方向に極端に偏ることだ。そうなるとDMMは、あの時こうしていれば、こんなことにはならなかったのにと言う後悔ばかりを延々と反芻するようになる。ページ124
様々な調査で、楽観的な人は健康で長生きし、悲観的な人は病気がちで短命だと言うことが確認されている。もちろんこれは因果関係が逆で、健康な人が楽観的に、病気がちな人が悲観的になるのかもしれない。ページ127
なぜこんなことになるかと言うと、人の脳はフィクションと現実を見分けることが不得意で、夢の実現を強く願うと、脳は既に望みのものを手に入れたと勘違いして、努力する代わりにリラックスしてしまうからのようだ。ページ128
ここからわかるように楽天的な人は他人に責任を添加するエゴイストで悲観的な人は自分で責任を引き受けようとする利他主義者だ。人類がその大半を過ごしてきた旧石器時代の親密な共同体では、自己チューは真っ先に排除されただろうから、適度な悲観は社会の中でうまくやっていくスキルだったのだろう。ページ129
人は徹底的に社会的な動物だが、交感神経と副交感神経だけしかないとすると、見知らぬ相手と出会ったときの反応は①逃げ出す、②襲いかかる、③失神する、の3つしかない。この相手は敵かもしれないが、もしかしたら交易や同盟、正義などで大きな利益をもたらしてくれるかもしれない。これは社会的な動物にとって極めて重要なので、何らかの方法で闘争闘争系とシャットダウン系の反応を抑制し、社会的な交流ができるようにしなければならなかった。ページ139
正規分布の特徴はそのばらつきを数学的に記述できることだそれに対してベキ分布は、テールがどこまでも伸びていくのだから記述する方法がない。これが正規分布に比べてベキ分布に言及される機会が圧倒的に少ない理由だが、世界のあり方を考える上で実はベキ分布複雑系の方がずっと重要なのだ。ページ162
旧石器時代から何百万年もこのような環境で暮らしていれば、自分が正しい共同体に属しているか、それとも属していないかの鋭敏な感覚が脳に組み込まれたのは間違いない。私たちは無意識のうちに、常に自分が、間違いでないかどうかを検証しているのだ。ページ175
このように考えると、ステレオタイプ脅威がシンプルに説明できる。激しく警告のアラームが鳴るのは、自分が少数派で、なおかつ優位性がないとスピリチュアルが感じる場合なのだ。ページ176
仲間はずれの痛みは、徹底的に社会的な動物である人が、共同体から孤立する潜在的な危険を避けるための適用として進化してきた。これが今では、学校でのいじめによって登校拒否になったり、自殺に追い込まれる原因になっている。ページ179
誰もが学校時代に体験したように、仲間外れという社会的な落とし穴から身を守るためには、誰かをその穴に突き落とそうがないのだ。ページ180
アスペが共感力が高いがメンタライジング能力が低い人たちだとするなら、最後はメタライジング能力は高いが共感力が低い人たちのことだ。そして共感力の顕著な精査から、サイコは男に多く女に少ない。ページ220
ここからわかるのは、低い共感力というネガティブな特性が、リーダーになる可能性を高めるという皮肉な事態だ。賢いサイコパスは部下を利用し、同僚を足蹴にしてでも出世を目指すリアリストであると同時に、その冷たさによって周囲からリーダーとみなされるようになるのだ。ページ235
ニュージーランド国内のおよそ1000人の若者集団を対象に問題行動を調査した研究では、ドラッグ依存症者がアルコール依存である確率はそうでない場合と比べて6倍高く、アルコール依存症がニコチン依存症である確率は4倍で、ギャンブル依存者のうち3分の2 =薬物依存症で、ギャンブル依存症がアルコール、ドラッグ、ニコチンの依存症になる確率はそうでない場合の3倍だった。ページ244
ダイエットに必死な人は、絶対に食べないと何度も誓う。だが研究によると、こうした自分との約束はほとんど効果がない。ページ265
だが最近になって、困惑するような研究が出てきた。意志の力で欲望を抑えようとすると勉強や練習の成果が落ちてしまうというのだ。なぜそんなことになるかというと意志力を振り絞ることで脳のリソースを使い果たしてしまうからだという。ページ267
…この研究で目を引くのは、比較的恵まれた家庭で育った若者には、このような現象は見られなかったことだ。これも、現実性パーソナリティーが生育環境で決まることで説明できるだろう。残酷な事実であるものの、比較的余裕のある家庭で生まれ育ち、もともと堅実性の高い子供は、勉強で力を使ったとしてもあまりストレスに感じず、健康に影響しないようだ。ページ268
言語運用能力が低いと世界を脅威と感じるようになり、その脅威から身を守ろうとすることがが移民排斥や国民ファーストのような内集団バイアスにつながる。それに対して言語運動運用能力が高いと、ほとんどの事は脅威にならないから、外国人や性的少数者など、自分とは違う人たちとの交友を楽しむようになる。このようにしてリベラルは好奇心旺盛で知能が高い、保守派は伝統にこだわり知能が低いというステロタイプが現れる。ページ296
この事は常識に反して、子供の政治的態度を決めるのは子育てより遺伝の影響が大きいことを示唆している。社会経済的に成功した賢い父親の子供は、遺伝的に受け継いだ高い言語の運用能力によって、ごく自然にリベラルになっていくのだろう。ページ301
こうして取り出した経験への開放性の本質とはなんだろうか。それがイマジネーションだ。ページ307
ビックファイブのパーソナリティーから知能が除外されているのは、知識社会においてその影響力がとてつもなく大きいからだろう。知能に関しては、男女で平均は同じだが、分散は男の方が大きい。男は空間把握能力に優れ、女は言語的能力に優れているとの精査が多くその研究で示されている。ページ326
経済格差ばかりが大きく取り上げられるが、思春期以外の若者にとって死活的に重要なのは給料が数万円多いか少ないかではなく、性愛を獲得できるかどうか「モテ/非モテ格差」だろう。ページ327
知能については年齢とともに遺伝率が上がり、思春期を過ぎると70%を超えることがわかっている。音楽やスポーツの能力も遺伝率が80%近くなる。性格や才能、認知能力から精神疾患に至るまで、人生のすべての領域に遺伝が関わりその影響は一般に思われているよりもかなり大きいページ328
日本だけでなく世界中で、子供の人生は子育ての巧拙によって決まると当然のように信じられている。だが行動遺伝学は、この常識が極めて疑わしいとの膨大な知見を積み上げてきた。ほとんどの世界で、パーソナリティーにおける共有環境(家庭環境)の影響はものすごく小さいのだ。ページ330
生存と生殖のためには、社会的アイデンティティーと、個人的アイデンティティーを巧みに操らなければならない。この同じだけど違うキャラを私たちはパーソナリティーとして知覚するのだ。ページ332
指で額に球を描いてみて欲しい。この時球のしっぽ右側に書く人はセルフモニタリングが低く左側に書く人はセルフモニタリングが高い自分がどちらの力かを知る簡単なテストだ。ページ339
まますます高度化する知識社会で、成功するパーソナリティーとして要求されているのは次の3つだ。高い知能+高い堅実性+低い神経症傾向(精神的安定性)。これに高い外交性と魅力的な外見が加わると、政治家として一国のトップに立ったり、グローバル企業のCEOとして活躍できるかもしれ。ページ362
だとすれば、ダークトライアドが単に意味嫌われるだけでなく、多くの追従者が生まれる理由がわかる。なぜなら一発当てれば大きな権力を握る可能性があるから。私たちは無意識のうちに、冷たく傲慢な人物に有能、優しく謙虚な人物に無能のステロタイプを当てはめる。社会的な動物である人間は、反社会的な人物を恐れながらも、賞賛し憧れる本能を持っているのかもしれない。ページ366
だらここにも不都合な事実があって、意思力によって感情を制御すると脳の別の機能がうまく働かなくなるし、さらに恐ろしいことに、ストレスによって病気になったり老化が早まったりするらしい。ページ368
だったらどうすれば良いのだろうか。…本書と私の提案は極めてシンプルだ。それは、「自分のパーソナリティーを前提にして、それがアドバンテージを持つ場所を探す」になる。ページ369
グローバル化する現代社会ではインターネットのバーチャル空間が拡大し様々なニッチが生まれている。その意志力を振り絞ってパーソナリティーを矯正し、自分を変えようと努力するよりも、多様なニッチの中から自分のパーソナリティーに合った場所を見つける方がずっと良いのではないだろうか。ページ370
成功した人生とはあなたのスピリチュアルに合ったポジティブな物語を作ることだ。そのためにこそ自分のパーソナリティーを知らなければならないのだ。ページ380」

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