1. 作品概要
ナサニエル・ホーソーンが1850年に発表した短編「The Great Stone Face(大いなる岩の顔)」は、アメリカ北東部(モデルはニューハンプシャー)の渓谷にそびえる“人面岩”と、そこに伝わる預言をめぐる寓話です。日本では小学校の道徳教材に採用されたことでも知られますが、原文の語彙や比喩は大人向けで、読み応えのある宗教・倫理小説と言えます。

2. あらすじ(補足付き完全版)
預言と少年アーネスト
渓谷には、空を見上げるように刻まれた巨大な人面岩がありました。先住民の言い伝えでは「いつの日か、この岩に瓜二つの偉大な人物が生まれ、人々に幸福をもたらす」という預言が残されています。農家の少年アーネストは、その言葉を胸に抱きながら成長します。

四人の“候補者”
年月が過ぎるうち、預言に当てはまると期待される人物が次々に渓谷へ戻ってきます。

ガザーゴールド – 金鉱で巨万の富を築いた大商人。だが強欲さが透けて見え、岩の顔とは似ても似つきません。

ブラッド・アンド・サンダー将軍 – 武勇で名を馳せた英雄。しかし勝利の誇示は岩に宿る慈愛と相反します。

“石づら”フェイス(旧ストーニー・フィズ)議員 – 名雄弁家の政治家ながら、言葉だけで行動が伴わず失望を買います。

若き詩人 – 崇高な詩を書きながら、現実の生き方は理想に届かないと自覚し、みずから預言の不適格者であると認めます。
ウィキペディア

預言の成就
老年となったアーネストは、夕暮れの野外説教で「善き生とは何か」を静かに語ります。その姿に詩人が叫びました――「見よ、大いなる岩の顔はこの人だ!」。集まった人々が岩とアーネストの横顔を交互に見上げると、慈愛と気高さが重なり、預言が真に成就したことを悟ります。しかし当のアーネストは「やがて私より賢く善い人が現れるだろう」と謙虚に語り、詩人と連れ立って家路へと歩み去るのでした。
ウィキペディア

3. テーマとメッセージ
内面的成長の力
 ホーソーンは「理想の人格は外から“やって来る”ものではなく、内なる徳の積み重ねで自分自身が近づいていくものだ」と説きます。

自己認識と謙虚さ
 預言の当事者となったアーネストでさえ、最後まで「自分こそ」とは考えません。真の偉大さには、自己顕示ではなく謙譲が宿るという逆説が描かれます。

理想と現実のギャップ
 詩人が示すように、高邁な思想を語るだけでは不十分で、日々の行いを通じて理想を“生きる”ことが大切だという警句が込められています。

4. なぜ子ども向け教材になったのか?
言葉遣いは難解でも、物語構造は明解で、〈憧れ→失望→本質の発見〉という成長プロセスが児童にも伝わります。また「外見や肩書ではなく、心のあり方こそが真価を決める」という道徳的メッセージは学校教育と親和性が高いからでしょう。

5. 再読して感じたこと(筆者の視点)
理想を“待つ”から“育てる”へ
 幼い頃はヒーローの出現を待ち望むだけだった自分が、大人になるにつれ日々の選択や行動で理想に近づこうとする――そんな読み替えができました。

今の社会への示唆
 SNSで“顔”や“実績”が先行しがちな時代こそ、アーネストの静かな行いが放つ説得力に学ぶべきと感じます。

6. まとめ
「大いなる岩の顔」は、外的成功よりも内面の誠実さを重んじるアメリカン・ロマン主義の真骨頂。繰り返し読むたびに、理想と現実の距離をどう埋めるかを静かに問いかけてきます。小学生の頃に読んだ人も、かつて“待つ側”だった自分と“歩む側”になりつつある今の自分を照らし合わせながら、ぜひ再読してみてください。

備忘します。

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「…アーネストの名声は求めずして望まずしてやってきて、彼があれほど静かに住んでいた渓谷を超えて、全世界に彼の名前が知られるようになった。大学教授が実際に活動している批評家までがアーネストに会いに、彼と会話するために遠くからやってくるようになった。というのも、この単純な農夫が他の人たちとは違う、本からでは得られない、しかし高い調子の世界観を持っていて、まるで天使を相手に、日常の友達とでも語っているときのように、ある激しい、個人的な、神のような世界観を表明することがあるという報告が一般に流布されたからである。相手が賢人であれ、政治家であれ、博愛主義者であれ、アーネストは彼の少年時代からの特徴であったあの優しい誠実さで、これらの訪問客を受け入れ、彼の心でも、まず先に浮かぶことか、それとも真層に横たわっていることか、何によらず自由闊達に語るのだった。こうして語っている間、彼の顔に知らず知らずして火がついてきて、暖かい、柔らかい黄昏のような光で相手の顔を照らすのだった。こうした会話の深淵さに誘われものを思うようになった客は、その場を辞してして家路に着くのだったが、渓谷を通り過ぎながらふと立ち止まり、あの大いなる岩の顔を見上げると、どこかで人間の顔にあれと同じ似顔を見たな、と想像したものだが、それがどこだったか思い出せなかった。ページ159
「あなたが希望したのは」と詩人が確かに微笑しながら答えた。「僕の中にあの大いなる岩の顔の似顔を見つけることだったんですよ!」確かに、あなたは質問なさった。前にギャザーゴールド氏やちゃんばら将軍や石づらのおっさんに失望なさったのと同じように。そうです、アネストさん、それが僕の呪われた運命なのです。あなたはこれらの3人の有名人の後に僕の名を加えたいのでしょう。ところが、あなたの希望のもう一つの失敗の例として、僕の名を記録するだけですよ。なんとなれば、…アーネストさん、はるかかなたの、あの慈悲深くかつ荘厳なる像の化身のようにいわれる資格は僕にはないのです。それはなぜだ?とアーネストが尋ね、本を指した。ここにある信念は神聖そのものではないのですか?。神聖の旋律はありますと答えた。…しかし、僕の人生は、いいですか、アーネストさん、僕の思念と一致していないのです。僕も壮大なる夢を持っていましたよ、だが、それは夢に過ぎなかった。なぜなら僕が生きてきたのは、しかも、それだって僕自身が選択したものだものなんだ、貧しい卑しい現実の中だったんです。時として僕、…偉大なるもの、美になるもの善なるもの、すべては僕の作品が、自然界において、人間生活において、従来よりは楽しめたといわれているものなんです。なのにそれに対する信仰が僕にはないんです。だとしたら清純な善と心の探求者としてのあなたが、遥かなる神聖の像の中に僕を見つけることなど望めますか?。詩人は悲しそうなに語った。その目は涙で潤んでいた。アーネストの目だってそうだった。ページ266
「見ろ!見ろ!かの大いなる岩の顔とはアーネストその人ではないか!」皆は一斉に見たが、この深い視野を持つ詩人のいうことが正しいと思った。予言は成就されたのである。だがアーネストはいうべきことを全部言い終わると、詩人の腕を取りゆっくりと家路についた。自分よりもっと賢い、もっと良い人がいずれは到来し、彼の大いなる岩の顔との相似性を表すだろうと今も希望しながら。ページ268

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