老いは「治療できる病気」になるのか?──「老いは病気であり、治療可能である」
このセンセーショナルな主張を掲げた『ライフスパン - 老いなき世界』(デビッド・A・シンクレア著)は、ベストセラーとして話題になった本です。科学的なエビデンスに満ち、随筆のように語られるその世界は、一見読みやすそうに見えますが、実際はなかなか骨太。ときに難解で冗長に感じる箇所もありましたが、それでも多くの刺激と発見がありました。
「寿命」と「健康寿命」は別物
本書を読んでまず強く印象に残ったのは、「寿命を延ばすこと」と「健康でいられる時間を延ばすこと」はまったく別の話だという点。痛みや病気に苦しみながらただ命を長らえることは、倫理的に許されるのか?という問いかけ(p.35)は、老いと向き合う私たちにとって本質的です。
老化は「情報の喪失」である
シンクレアは老化を「情報の喪失」と捉えます(p.63)。特に注目すべきは、エピゲノム(遺伝子の働きを調節する情報)の乱れが、老化の原因であるという考え方(p.103、p.131)。シワや白髪、関節の痛みといった症状は、細胞のアイデンティティ喪失=情報の乱れによって説明できるというのです。
その結果、「老化=病気である」という大胆な定義にたどり着きます(p.138)。
若返りはすでに始まっている
本書では、iPS細胞の開発で知られる山中伸弥教授の研究にも触れられています(p.280)。遺伝子の「リセットスイッチ」を使えば、細胞を初期化し、エピゲノムの地形を再構築することができる可能性がある。これはつまり、老化した細胞を“若返らせる”技術が現実味を帯びつつあることを意味します。
「長生き社会」は希望か、リスクか
もし100歳まで元気に働けるようになったら──。本書はその未来に対する社会的なインパクトも考察しています(p.400)。高齢者が労働市場から追いやられる現在の「固定観念」が、テクノロジーによって根本から覆る未来。そこには新しい働き方、新しい生き方のビジョンが広がっています。
実践編:著者の生活スタイル
著者は、カロリー制限、運動、植物性中心の食事、そしてサプリメント摂取(NMN・レスベラトロール・メトホルミンなど)といった具体的な生活習慣を実践していると明かしています(p.476)。特定の商品を推奨する立場ではないとしながらも、その生活の「科学的根拠」が本書全体を貫いています。
最後に──「仕方がない」を超えて
印象的だったのは、70代後半の父親が「老化を仕方のないことと受け入れず、新しい人生を始めた」というエピソード(p.251)。この本が伝えたかったのは、科学的な知見だけでなく、「自分の生き方をどう更新するか」という問いなのかもしれません。
結論:老いとどう向き合うかは、私たち次第。
『ライフスパン』は、単に「老いない体」を目指すためのハウツーではなく、老いを再定義し、未来の人間の可能性に光を当てる1冊でした。
これからの時代、老いを「受け入れる」のではなく、「選択肢」として見直すことが必要なのだと思います。備忘します。
もう一つ考えないといけないのが、寿命を向上させることと、元気でいられる時間を長くする事は違うという点だ。私たちはその両方の実現を目指すべきである。痛みや病や、虚弱や体の不自由に苦しむことが既に生活の全てになっているのに、ただ死なさずにおくだけのために人生をさらに何十年も長引かせるのは、同義的に言って許されることではない。ページ35
もう一つ考えないといけないのが、寿命を向上させることと、元気でいられる時間を長くする事は違うという点だ。私たちはその両方の実現を目指すべきであるスペルステスは、見た目こそ当時の生物と大差ないもの、他より明らかに有利な特徴を1つ持っていた。生き残るための遺伝子メカニズムを発達させていたのである。ページ42
最後の乾期が終わりを告げ、湖に再び水が満ちた時、マグナスペルテスは目を覚ました。今なら子孫を残すことができる。だから繰り返し繰り返し増殖した。やがて新しい環境へと移動し、進化を続け新たな世代を次々に生み出していった。この生物こそが私たちのアダムとイブである。ページ46ごく単純に言えば、老化とは情報の喪失に他ならない。情報の喪失と聞くとメドワーとシラードがそれぞれに独自に提唱した仮説の根幹部分を思い出すかもしれない。あの仮説が間違っていたのは、遺伝情報の喪失に焦点を当てたからだ。ページ63
クローン技術が見事に証明している通り、私たちの細胞は若い頃のデジタル情報を高齢になっても維持している。若返るためには、傷を取り除く研磨剤を見つけさえすれば良い。ページ70
老化の症状に影響する遺伝子なら既に見つかっている。また老化を防ぐシステムを制御する遺伝子も突き止められている。そのおかげで未熟の化学物質や医薬品、天然の化学物質や医薬品、あるいはテクノロジーを用いて老化を遅らせる道が開けた。しかし、1970年代に発見され、ガンと戦う標的を与えてくれた遺伝子とは違って、老化の原因となる単一の遺伝子が発見されていない。ページ79
生殖能力を失った高齢の幹細胞の場合も同じだ。老化の情報理論によればこれこそが老化の原因である。そのせいで白髪が生え、皮膚にシワがより、関節が痛み始める。しかも廊下の典型的特徴の1つ1つがなぜ起きるのかもこの理論で説明できる。幹細胞の消耗から細胞の老化まで、ミトコンドリアの機能不全からテロメアの急速な短縮まで、全部についてだ。ページ95酵母が生殖能力を失って老化することの根本的な上流の原因はゲノムに不安定さが積み重なることにあると見て良さそうだ。…若さ→ DNAの損傷→ゲノムの不安定化→ DNAの巻き付きと遺伝子調節(つまりゲノム)の混乱→細胞のアイデンティティーの喪失→細胞の老化→病気→これが意味する事は重大だ。このどれか1つにでも人の手で働くことからかけることができれば、人間がもっと長生きするのを助けられるかもしれないのである。ページ99
尤も、こうした論文が登場する頃には私は1つのことを確信していた。それは、エピゲノムの雑音が老化を引き起こしている可能性が高いと言うことである。ページ103これが老化だ。心臓病に癌、痛みに衰弱、そして死が待つ世界へと私たち一人ひとりを追いやるのは、エピゲノム情報の喪失なのである。ページ131
言平たく言えば、そしてよりいっそう思い切った言い方をするならこうなる、老化そのものが1個の疾患なのだ。ページ138
老化は1個の病気である。私はそう確信している。その病気は治療可能であり、私たちが生きている間に直せるようになると信じている。そうなれば、人間の健康に対する私たちの味方は根底から使えるだろう。ページ160私は約25年にわたって老化を研究し、何千本と言う科学論文を読んできた。そんな私にできるアドバイスが1つあるとすれば、食事の量や回数を減らせである。長く健康を保ち、寿命を最大限に伸ばしたいなら、これが今すぐ実行できてしかも確実な方法だ。ページ171
同じ長寿のホットスポットでも、中国南部の王族自治権などはまだ少し様子が違っている。良質で体に良い食物がたっぷり手に入るのに、毎日長い時間あえてそれを遠ざけていくのだ。この地域に暮らす100歳以上の多くには、朝食を取る習慣がない。たいていは正午ごろに最初の食事を少量口にし、夕食になったら家族と一緒にもっとボリュームのある食事をする。そうやって、1日16時間余りを何も食べずに過ごすのが普通だ。ページ183
まずはタバコである。合法的な悪習は数々あると、これほどエピゲノムに悪いものはそうないといって良い。要するに喫煙とは、有害な化学物質を何千種類も混ぜ合わせて毎日体に取り込むことに他ならない。喫煙者が人より老けて見えるのには訳がある。実際に老化のスピードが早いからだ。喫煙によって生じるDNAの損傷のせいで、DNA修復の部隊は激務を強いられている。ページ205
従って根本的なレベルで見れば生命は実に単純だと言える。私たちは混沌から生じた秩序のおかげで存在している。生きてることに乾杯するなら、酵素に乾杯してしかるべきだろう。ページ212
これらの意味するところは実に大きい。まずいコーヒーを1杯飲むより安い値段で、たった1つの安全な薬がそれだけ大勢の人の暮らしを著しく改善させたのである。メトホルミンの効果ががんの罹患率を下げることだけだとしても、やはり広く処方する価値がある。ベジ223その後も何百件という研究効果が発表され、レスベラトロールが数十種類の病気(種々の癌、心臓病、脳卒中、心臓発作、神経変性、炎症性疾患、側症治療など)に対して予防効果を発揮する他、マウスの健康と回復力を全般的に高めることが報告されていった。…共同研究では、レスベラトロールを組み合わせると、断食のみでは達成できない長さまで平均寿命を最大寿命をともに伸ばすことを発見した。ページ234
だから、NMLを試して半年とったときにあんなことをいい出すのは、よほどのことだったに違いない、大騒ぎはしたくないんだけどね確かに何かが起きてるよ、あまり疲れを感じにくくなり、イライラが減り、頭もはっきりしてきたという。ページ248
ごく普通の人間が、70代後半で人生に公然と立ち向かい、新たな生き方を歩み始めたのだから、老化を仕方がないものとして受け入れるのをやめれば、人生はどれだけ素晴らしいものになるか。父は身をもって示してページ251
山中信也が突き止めた老化のリセットスイッチ
2006年日本の幹細胞研究者である山中晋也は、世界に向けて重大な発表行った。遺伝子の組み合わせをいくつも試した結果、4つの遺伝子が成熟細胞を人工多能性幹細胞(iPS細胞)に変えることを発見したと言うのである。…一見すると山中のした事は気の利いた実験出現に過ぎないように思えるかもしれない。だが老化との関係は実に深い。その理由としては、山中のおかげで、ありとあらゆる血液細胞や、臓器や組織を移植用に培養できるようになるから、というのももちろんある。だがそれだけではない。山中が突き止めたものは、ガードンの実験でおたまじゃくしを産むことができたリセットのスイッチだ。つまり生物の世界における訂正装置だと私は考えている。この所のリセットスイッチを用いれば人の細胞を培養ザで初期化できるだけでなく、全身のエピゲノンの地形を初期状態に戻すことができるはずだ。私はそう予想しているし、教え子たちもそれを実施すべく取り組んでいる。それはビー玉を本来あるべき谷に戻すことであり例えばサーチェインを当初の持ち場に返すことでもある。そうすれば、老化の過程でアイデンティティーを失った細胞は元の姿を回復する。これこそが、私たちの探し求めてきたDVDの研磨材だ。ページ280
確かに昔は、テクノロジーを習得するのに時間がかかったかもしれない。しかし現代の教養ある高齢者は、65歳より若い世代と同じ位テクノロジーを使いこなしている。忘れてはいけない。彼らの世代が月にロケットを送り、超音速旅客機やパソコンを発明したんだ。ページ399
誤った固定観念のせいで、企業が優れた労働者を失うに任せているのは、なんとももったいない限りである。しかしそれが国レベルのみならず世界レベルが起きていて、まだまだ働き盛りの何百万人という人々を第一線から退かしている。それもこれもすべては、年齢に対する旧態以前とした見方のせいだ。そんな捉え方は現時点でも間違っているし、近い将来にはなおさら見当外れになる。ページ400
健康な寿命を伸ばすことができれば、社会の投資は何倍にもなって戻ってくる。労働力として貢献できる時間が長ければ長いほど、その見返りは大きい。だからといって、人が仕事をし続けなければいけないと言っているわけではない。社会からの投資を開始を返しおえたら、そして自活できるなら、気の済むまで好きなことをすればいいと思う。ただ、今よりずっと長く健康でいられる生物へと私たちが進化していくにつれて、どういう人が働くべきかという古い固定観念がたちまち改めていくのは改められていくのは間違いない。ページ40
人が80年でも90年でも、あるいは100年でも働き続けることを選ぶようになれば、経済のあり方は根本から変わるだろう。比喩としても文字通りとしてもタンスにしまい込まれた資金は、既に数兆ドルにのぼる。こうなるのは体が弱って仕事ができなくなったときに金がなくなるのを恐れているからだ。だが仕事をしたい人や仕事の必要な人が、いくつになっても活躍できる選択肢があれば、わずか数年間ですら考えられなかったような自由が手に入るだろう。夢を叶えたくても、新しいことを始めたくても、事業を起こしたくても、あるいは新たな級の旅に出たくても、そのために貯蓄を崩すのはリスクが伴う。だが、長い期間働くようになれば、それはもはやたいしたリスクではない。長く充実した人生を送るための投資の1つに過ぎなくなる。ページ4005
私が実践していることーー「食事のカロリーを減らせ、小さいことにくよくよするな、運動せよ、」以外に医学的なアドバイスをするつもりはない。私は研究者であって医者ではないからだ。人に合うし講師と指する立場にはないしサプリメントにしても他の商品にしても特定のものを推薦する事は無い。ページ474
さて前置きアこれくらいにして、では私は何をしているのか。
NN 1グラム1000ミリグラム、レスペラトロール1グラム及びメトロホルミン1グラムを毎朝摂取する。・ビタミンD及びK 2-1日推奨量を摂取し、83ミリグラムのアスプリンを服用する。・
砂糖パンパスタの摂取量をできるだけ少なくする。・1日のどれか一食を抜くか、少なくともごく少量に抑えるようにする。
・数ヶ月に1度専門家が自宅にやってきて私の血液を採取し、それを私は数10個のバイオマーカーについて分析してきた
・毎日できるだけ歩くことを心がけ、上の階に行く際は階段を使うようにしている。
・植物をたくさん摂取し、他の哺乳類を口にするのはなるべく避けるようにしている
・タバコは吸わないし電子レンジにかけたプラスチックや過度な紫外線やレントゲンやCT scanを避けるようにしている
・日中と就寝時は、涼しい場所にいるようにする。
・健康寿命を伸ばす上で最適な範囲内にBMIを保つことを目指している。私の場合はそれが23から25である。ページ476