「本を読む馬鹿が私は好きよ」。なんとも強烈で、惹きつけられるタイトルです。これは糸井重里さんのコピーだと知り、なるほどと膝を打ちました。1990年前後、私がまだ若者だった頃に活躍した広告コピーを集めた傑作選。その中から、今回あらためて読み返し、70歳の今の感覚で心に響いたコピーを10個選びました。若い頃には「どきっとする」と感じた言葉も、年齢を重ねると「そうだよね」としみじみ共感するように変わっていきます。これは備忘録として残しておきたいと思います。
本を読む馬鹿が私は好きよ(糸井重里)
本を読む人は、時に浮世離れした「馬鹿」に見えることもあります。でも、そうした人が私は好きだと宣言するこのコピー。知的な営みを肯定する潔さに惹かれました。年齢を重ねて、読書の価値をますます実感しています。
一枚のTシャツを買うよりも一枚のTシャツを売ることの面白さを知った(岡部正泰)
アルバイトで初めて「売る」という体験をしたときの感動。それが社会に出る第一歩。ビジネスの原点は、やっぱり「働くことは面白い」という発見にあります。忘れてはいけない初心だと思います。
ビジネスが1番ロマンチックだ(竹内基)
感動も挫折も、予測できない展開もある。そう思えばビジネスは小説よりもロマンにあふれています。私自身の経験からも、この言葉には深くうなずきました。
天才はしばしば変なやつだ。安心しろ(田中康嗣)
少し救われる言葉です。天才かどうかはさておき、変わっていること自体が可能性の種。変であることを恐れなくていい、という安心感を与えてくれます。
恋は、遠い日の花火ではない(小野田孝夫)
「恋は年齢に関係ない」——このコピーは元気を与えてくれます。人生を彩るエネルギーとしての恋心は、いくつになっても大切にしたいものです。
生きるが勝ちだよ、大丈夫(中畑隆)
どんなに辛いときも、生きていれば必ず楽しいことに出会える。シンプルですが、力強いメッセージです。「生きるだけで勝ち」と言える感覚は、今の私にしっくりきます。
おいしい生活(糸井重里)
このコピーが登場したとき、ライフスタイルという言葉が市民権を得ました。甘い、酸っぱい、苦い——生活は味わい深い。そうした日常の豊かさを端的に表す名コピーです。
失敗より、諦めの方が、本当は怖い(細野和美)
年齢を重ねるほど、これは実感します。失敗は学びを残しますが、諦めは何も残さない。挑戦を続ける勇気を思い出させてくれる言葉です。
あなたが会いたい人も、きっと、あなたに会いたい(角田誠)
人間関係は双方向。会いたいと思ったら、自分から動けばいい。その一歩で人生は豊かになります。疎遠になりがちな今こそ、思い出したいコピーです。
おわりに
1990年代の広告コピーは、今読んでも色あせません。むしろ、人生の経験を重ねたからこそ、深く心に響いてきます。コピーは時代を映し出す鏡であり、同時に、普遍的な人間の感情や願いを掬い取るものだとあらためて感じました。