NHK朝ドラ「おていちゃん」は、沢村貞子さんのエッセー『私の浅草』をもとにした半生記です。
その沢村さんが85歳で書いた『老いの楽しみ』を読みました。
読み終えてまず感じたのは——この人は本当にすごい。
治安維持法違反で一年半の投獄を経験しながら、淡々と人生を語る姿に深い力を感じます。
85歳でこの筆致、このユーモア。私もこうありたいと思いました。
心に残った言葉たち
「年寄りはぶらぶらして良い」(p.19)
「自分の楽しいと思うことをして心を慰める」(p.21)
“ぶらぶらして良い”という言葉に救われました。
もっとも、私も妻もぶらぶらしている暇はありません(笑)。
それでも、心のどこかに「ぶらぶらしても良い」と言える余裕を持ちたいものです。
「まぁ何しても人それぞれ。我が家では、家人はぶらぶら、私は遊び心で…」(p.23)
年を重ねてもユーモアを忘れない、その軽やかさが沢村さんらしい。
「やれやれ、今日も何とか過ぎました。無事で結構。」(p.35)
“やれやれ”と締めくくれる一日。それこそ幸せな老いのかたちでしょう。
「お互いに言葉を惜しまない。相手の弱点に触れないこと。ゆっくり話し、しんみり聞くのは思い出話。」(p.64)
夫婦の理想の関係ですね。“言葉を惜しまない”という姿勢を見習いたいです。
「幸せとは所詮自分が感じるもの。他の人からもらうのではない。」(p.136)
この一文に沢村さんの人生観が凝縮されています。
どんな境遇でも、幸せを見つけるのは自分自身。
「秘密を守ること、よく聞くこと、ほじくり返さないこと——この三つをやったら大カウンセラーです。」(p.232)
誠実に生き、人を傷つけず、静かに笑って老いを楽しむ。
沢村さんの生き方には、そんな凛とした品格があります。
所感
私も、忙しい日々の中でも“遊び心”を忘れずにいたい。
妻も私もぶらぶらしている暇はありませんが、
「やれやれ、今日も無事で結構」と笑って一日を終える、
そんな穏やかな老いを目指したいと思います。
備忘します。
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…気持ちを軽くしてくれたのが、「年寄りはぶらぶらして良い」と書かれた河合先生の本だった。ページ19
自分の楽しいと思うことをして心を慰める。そうこれが私の遊びだった。振り返ってみると、私は若い時から、自分で楽しい、と思うことだけをしてきた。傍目はまるで気にしなかった。ページ21
まぁ何しても人それぞれです。我が家では、家人はぶらぶら、私は遊び心で、残された月日を過ごしたいと願っていますのでどうぞ、大目に見てくださいましね。ページ23
やれやれ、今日も何とか過ぎました。無事で結構、「寝るほど楽がある中に、浮世の馬鹿が起きて働く」などと働き者だった亡き母の口真似をしているうちに、もうぐっすり眠ってしまうから、誠にもってご承諾。ページ35
「さぁ私の体さん、これで今日も何とか動いてくださいな」と、よくお願いして、私の15分の入浴は終わり。ページ37
手を洗いながら、ふと老女のなんとも哀れな顔これが私思わず顔をそむけてしまった。その晩しばらく眠れなかった。老いとはなんとも悲しいもの…。翌日から毎朝髪をとかす櫛の数が、ずっと多くなった。ページ40
なるべく良い格好に見えるように苦労しながら…。80半ばになっても、まだ洒落っけがあるのは生きている証拠ということだろうか。ページ45
「うん、まぁ、歳にしては良い方よね」などと思うように、自分を騙したり、おだてたりして、良い気持ちにしてやらないと…老女は、時折悲しく、寂しい夢を見たりするから…。ページ46
ただ、時々、ふっと気にかかるのは、夫83歳、妻が85歳の老夫婦。この長生きの幸運や、明日も明後日も…来年も再来年も、ずっと続くはずはない。やがて、どちらかが欠けると思うと、今の毎日がもったいないような気がして、何かにつけて言葉を交わす。ページ60
互いに言葉を惜しまない。…気をつけなければいけないのは、お互いに相手の弱点に触れないこと…ゆっくり話し、しんみり聞くのは思い出話。ページ64
…お互いに言葉を惜しまない。…気をつけなければいけないのは、お互いに相手の弱点に触れないこと…ゆっくり話し、しんみり聞くのは思い出話。ページ64
それなのに、二度と政治運動に関わると心に決めたのは、その後先輩の裏切りを知ったからだった。ページ96
たまに、子供の私がうんざりして、後で、「あの話もう100ぺん位聞いたねな」どと言うと、「何遍だっていいじゃないか、年寄りっていうものは、どんな面白い話を聞くよりも、自分の思い出話を聞いてもらう方が、ずっと嬉しいんだよ、功徳だよ、聞いてあげることが」と。だから相手の話に余計な口を挟まない。話の腰をおられれば、しらけてしまう。ページ127
大切な話し相手は、朝夕代わり映えもしない顔つきで合わせている相棒である。いつでもとりとめないおしゃべりができるのは何より幸せ。ページ132
私が治安維持法に触れて引っ張られても、世間に対して肩身が狭い、などとは言わず、逆に「お前のした事は決して恥ずかしいことじゃないよ」と失意の娘を励ましてくれた。ページ136
おむこうのおばあさんに、「おはよう」のご挨拶を忘れたりすると、大声で怒鳴ったものだった。ご挨拶1つできないようじゃ、ろくな大人になれないよ…物心つかないうちからそんなしつけをするせいか年頃になっても照れもしないで人様の前で一応口が聞けたのは幸せだった。ページ142
幸せとは所詮自分が感じるものだと思う。ためにはどう見えても、自分自身が喜びを感じなければ、幸福とは言えない。そしてそれは他の人からもらうのではない。ページ136
古くなる、置いて行く、と言う事はすべての人が初めて経験すること。ある日、ふと鏡に映った自分の顔にぎょっとする。白い髪、深い皺は、色あせた唇、これが私?まさか、、、慌てて老眼鏡をかけて、つくづく眺めて、もう一度、がっかりする。この間までこんなではなかったの…とため息が出る。ページ175
私のたったひとつの取り柄はね、相手の言うことをよく聞くの。よく聞いて、私の方がおかしいとか、間違っていると思うとすぐ謝るわけ。ページ196
そのためには適当な散歩と、ちょっとした運動と、食べ物。ですから私、食べ物をとっても大事にするの。年寄りは目で食べますからね。きれいだなと思うとちょっと食べてみようかなと思うの。お薬も大事だけど、食べ物も大事。毎日の変化も工夫次第よね。ページ199
全く、猫と女は引っ越しが嫌いなんですよ。だって、女はどんな家でも、何とかみんなが暮らしていいようにと思って一生懸命片付けたりしているでしょう。で、やれやれと思っているのに、越すって言われたら嫌になっちゃいますよ。私なんか夢にも思わなかった。ページ216
秘密を守ること、よく聞くこと、ほじくり返さないこと、この3つをやったら大カウンセラーです。それは、いっぱい相談に来ただろうと思います。男の人もね。監督もね。自分の人生というのをぴたっと生きていないと、自分のところで話を止められないですね。…自分が揺れ動いていると、秘密と言うものはやっぱりお金の代わりですからね、秘密を人に分け与えてお返しが来ますから、どうしても喋りたくなるんですね。ページ232
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