1. AC再定義の衝撃
 本書を手に取ったとき、まず私が驚いたのは「アダルトチルドレン」という言葉の真の意味だった。長らく私は、どこか子どもっぽさを引きずる大人のことだと思い込んでいた。しかし信田さよ子さんは、これがアルコール依存症の親のもとで育った成人を指す概念だとはっきり示す。読み進めるうちに、幼い頃の自分が置かれていた家庭環境を新しい光で照らし出されたように感じた。

2. 夜の恐怖と身体記憶
 昼間は模範的に働く父が、夜になると酒で人格を変える――そんな姿を見て育った私は、今でも深夜の物音に過敏に反応する。それは「家に帰った父が暴れ出すかもしれない」という長年の恐怖が、まだ体内に残っている証拠だろう。本書は、こうした反応が決して「性格の弱さ」ではなく、トラウマゆえの学習された防衛反応であると教えてくれる。

3. 依存症は社会の病
 著者はアルコール依存を「意志の弱さ」や「本人の怠慢」ではなく、社会的要因が絡む病として捉える。過剰な競争、長時間労働、感情表現の抑圧――こうした環境が人を酒へ駆り立て、その痛み止めとしての機能を強化してしまう。これを読んで私は、父だけを責めていた過去の自分に複雑な思いを抱いた。暴力や暴言は許されないが、その背後には社会が個人に課した重圧も確かに存在したのだ。

4. 行為・関係にも潜む依存
 依存は物質だけに留まらず、「行為」や「人間関係」にも及ぶ。信田さんは家族がしばしば“関係の依存”に陥ると指摘する。アルコールに溺れる当事者を変えようと必死で介入し、いつの間にか「相手を救う」行為そのものに囚われてしまう。私自身、母が父を何とか抑えようとし、その過程で私にも細かな指示や感情の共有を求めた場面を思い出した。

5. 回復は自覚から始まる
 本書が力強いのは、家族全体の絡み合いを「悪循環」ではなく「回復の起点」として描く点だ。まずは自分の立場を正確に言語化する――「私はアダルトチルドレンだ」と名乗るだけで、沈黙していた痛みが外気に触れ、少し空気が動く。そのうえで内面に鳴り響く親の声を見つめ直し、子どものころに身につけた対人パターンを書き換えていく。

6. 物語を語り直す力
 ページを追うほどに、私は父の姿、若い頃の自分の飲酒行動、母や兄弟との関係を思い出した。それらは依存というレンズを通すことで一つの物語のように繋がった。理解は癒やしそのものではないが、物語を語り直すことで回復の第一歩が開けると実感した。

7. 本を差し出すという支援
 読後、もし親しい人がアルコール問題で苦しんでいたら、本書をそっと手渡したいと思った。専門家でも医師でもないが、何千人もの当事者と向き合った著者の言葉は、知識と共感の両方を届けてくれる。自分や家族を責めていた人にとって、その言葉が一筋の光になるかもしれない。

8. 離れる勇気、語る勇気
 依存症は一人で背負うにはあまりに重い。だからこそ「離れる勇気」も「語る勇気」も、互いに手を差し伸べ合うことで生まれる。本書は過去を整理し、未来へ歩むための静かな指南書となった。読めて本当によかった――そう心から思う。
備忘します。

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しかし中毒と依存症は全く異なるものなのだ。中毒とはある物質を摂取した結果、その人の体に生じる様々な不快な反応のことを指している。…一方依存とは、自ら進んで摂取による効果を繰り返し繰り返し求めることを指す。ページ15
依存症は意志の弱い人がなるのではありません。これは病気なのです。私はこのフレーズを何百回と家族に対して伝えてきた。ページ19
つまり刺激の対象アルコールという薬物に1点集中させることで、他の薬物の乱用を相対的に防いできたのではいえないだろうか。ページ26
嗜癖(アディクション)とはなんだろう… 1番簡単な定義付けは「行動の悪習慣というものである。もう少し日常的には「ハマってしまうこと、わかっちゃいるけどやめられない」とでも表現できよう。ページ35
嗜癖は、大きく分けると①物質壁、②プロセス刺激、③関係刺激の3つに分かれる。
①物質収益
…ある物質を体内に摂取することによって起きる変化、快感に刺激していくことを指す。アルコール依存症、薬物依存症、ニコチン依存症などが挙げられる。…
②プロセス収益
ある行為の始まりから終わりまでのプロセスに伴う快感に嗜癖することを指す。ギャンブル依存症、浪費、買い物依存症、繰り返される暴力、繰り返される性的逸脱行為、等壁などが挙げられる。
③関係嗜癖
人との関係の嗜癖である。破滅的な異性との関係を繰り返したり、他者の問題に集中しその人生に侵入する快感への刺激である。「共依存」という。ページ43
アルコール依存症の本人はアルコールという物質に嗜癖しており、共依存の人たちは関係に嗜癖してるといわれる。それは関係によるというより、むしろとらわれるといったほうがいいかもしれない。ページ47
ギャンブル依存症においても同様のことが起きる。ギャンブルで作った多額の借金を期日までに返済しなくてはならないと言う時、彼らは必ず期日ギリギリになってそのことを告白する。ページ58

繰り返すが依存症、刺激行動はそれを維持継続させるために、必ず周囲の人間を手段として使うということなのだ。これが依存症は家族の問題であるという根拠であり、依存症の家族がいかに残酷な状況に置かれているかの説明でもある。ページ58
周囲の人間は、傷つけられないよう離れ、本人が現実に直面することの妨害をしないことが何より必要なのかもしれない。離れていくことも愛であり、手助けするのが時としては有害な愛になるとすれば一体、愛情とは何なんだろうか。ページ63
夫婦関係、人間関係がアルコール依存症の人たちの飲酒、さらには断酒に決定的な影響力を持つのかもしれない。そうか、これは「関係の病理」といえるのではないか。酒との関係だけを追い求めて、妻、子供、仕事、さらには自分の体との関係が1つずつ崩壊していく、そこから先との関係を断ち切り、人との関係を深め強化していくことで再構築されていく…。ページ93

回復対象とすべきは、本人より先に困っている家族なのである。その家族に正面から対峙していくことが重要なのだ。ページ117
このように何よりも忌避すべき父親と同じ酒の飲み方になってしまうという典型的な世代連鎖は、アルコール依存症の治療の世界では実にポピュラーである。ページ119
アダルトチルドとは、(AC OA )~の略で、もともとはアルコール依存症の親のもとで育って成人した人という意味である。アルコール依存症の親のもとで育つ子供への注目は、アルコール依存症の治療の発展とともに生まれた。ページ128
アルコール問題を抱えた家族…第一の苦しみは父親から受けるよっての暴言暴力やしらふと酩酊の交代する人格の間で振り回される混乱によるものである。…第二の苦しみは、母からの共依存的支配によるものである。…母が自分の人生に侵入し寄生していることによる苦しみである。離婚の恐怖を子供に感じさせ続けたのに結局は離婚もせず、自らの不幸を子供によって救われようとした母からの愛情という名の支配なのだ。第3の苦しみが、このような父と母が日常繰り広げるドラマの目撃者としての苦しみである。ページ133
家族で生き延びるために身に付けた適応的パターンが、そこを離れたため、日常、周囲の違和感を生じてしまうという事はパラドックスであり、悲劇でもある。しかし、それは自分の対人関係能力のなさや性格に帰せられるものではない。サバイバルのため学習されたのであるから再学習によってそれは変えられるという可能性を意味するのである。ページ116
このようなコントロールは、主として母親によるものだ。不幸な母はその不幸を自分だけで抱え込めず、子供をコントロールすることで、子供の人生に追いかぶっさって生きることでその不幸を見つめないようにする。他者の不幸に関心を集中することで自らの不幸を否認するのは共依存である。共依存の人は他者の不幸に敏感だ。その人を探し自分がいなければ生きていけないようにする。ページ137
ACの回復とは…回復は3段階に取られられる。第一段階は、ACと自己認知することである。…第一段階は、インナーペアレントの生産である。内在する親との決別ともいえるだろう。…第3段階は、原家族で身に付けた対人関係を変化させることである。ページ140
資本家・労働者という生産関係における支配を読みといたのがマルキシズムであった。男性による女性の支配を読みといたのはフェミニズムであった。そして親と子という関係における親の支配を読み解いたのはアダルトチルドレンというコンセプトであった。ページ143
…つまり自分を責める事は次の刺激役行動の快をより高めていくのだ。周囲が本人を意志が弱いと責めることが、刺激行動を起こすエネルギーを補給しているようなものなのだ。ページ173
依存症者は、このように周囲からコントロール(出席、罵倒、非難、説教)が撤去され、その行動そのものが承認されることで、その行動が止まるということなのだ。ページ174
巷で言われるように依存症の人たちは決して意志が弱い人たちなのではなくて、とことんまで意志の力を発揮し自分と戦った人たちなのである。それは繰り返しになるが資本主義社会が、我々日本人に要請したことの忠実な実践なのであった。ページ178
ハングリー、アングリー、ロンリー、タイアードの4語(HALT)、飢え、怒り、孤独、疲労、の4つが飲酒要求をかき立てるということなのだ。これを日々避けることで飲酒が防止される。ページ179
依存症の人たちはコントロールする快を求めて、どうしようもなくなった人たちだった。酒だけでなく人間関係も、そして生き方そのものもコントロールしようとし、その快感を追い求め続けたのだった。しかしコントロールしない、決して所有しないことにも快はある。それを私はアルコール依存症の回復者から体験的に肌で知らされ…ページ184


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